今日もまた終わる。

都内だけでも30万人はいる平凡なサラリーマン。ライターもやってます。

運転免許を取得したあの夏

f:id:yama241:20170819003244j:plain



私が普通自動車運転免許を取得したのは20歳の時。
もう10数年も前だ。
ダラダラ通うのも嫌だなと思い、
登録してからほぼ毎日通ったので、1ヶ月と数日で取得できた。

当時はまだ、「男がオートマ限定はダサい」という古い風潮が残っていたので、
特に必要もないのにマニュアルにした。
今となってもマニュアルは教習所でしか運転していないので、まったく意味のない見栄である。



取得して数日後、割と仲が良かった女友達からメールがきた。

「免許取ったなら海に行こうよ」

よく2人で食事には行っていたが、遊びに行ったことはなかった。

父から借りたパジェロジュニアにはカーナビがなかったので、ダッシュボードに入っていた古い地図を助手席の彼女に託し、千葉方面に向かってスタート。

海に着けば彼女の水着姿が見れる。
友達付き合いが長く、恋愛感情がある相手ではなくともスタイルは気になっていた。
宿泊先は決まってないが、帰らずにどこかに泊まる予定。

ーーー今日という日は、20歳の夏のステキな1ページになる。ーーー

そんな予感がしていた。
青春というか、性春というか、若い時分の男はそんなことばかり考えるものだ。


 


ところがどっこい、世の中そんなに甘くない。
成人したての青年は悲観した。

渋滞に巻き込まれ、ほとんど進まず2人ともイライラしてきた。
エアコンは効きが悪く、カーステから流れる音楽は数周して飽きている。
出発時は2人でノリノリで口ずさんだ『夏色』も『HOTEL PACIFIC』も、今や浄瑠璃と同じくらい興味を持てない。

次第に会話が減り、さらにはナビ役の彼女が高速の降口を間違えると、
車内がケンカ中のカップルのような空気に包まれた。
我々は恋人同士ではないので、あまり強く言えないのがまたイライラを増幅させる。

「喉乾いたからお茶買おうよ」

この空気を切り裂き提案した彼女の視線の先にあったドン・キホーテに駐車して、外の空気を吸った。
だいぶ近づいたのか、ほんのりと潮の香りがした。

エアコンの効いた店内はとても快適だった。
図書館や銀行に入って涼をとった小学生時代を思い出した。

「あ! これも買おうよ!」

彼女の指の先には手持ち花火のお徳用パック。
おお、これはいい。
曖昧だが、『あすなろ白書』か何かでみんなで手持ち花火をしている時にこっそりキスをするシーンがあった気がする。
夜はそれを…。

だいぶメンタルが回復したので再出発。
到着まで1時間も掛からないかなというところ。
このタイミングで案内役が爆睡。
地図を膝の上に載せたまま大股開き。
ミニのタイトスカートから伸びる足に目を奪われたが、紳士である私はどこにも触れないように地図を回収した。

30分ほど走ったところでまた道に迷ったため、彼女を助手席に残したままコンビニに立ち寄った。
出発前にも気づいてはいたが、若葉マークには本当に殺生なプランだ。



最新の地図を立ち読みし、またお茶を買って車に戻った。
車外から、まだ眠っている彼女の横顔が見えて、「けっこうカワイイな」なんて今さら思った。
起こさないようにゆっくりと運転席のドアを開けた時だった。

お…おパンツ!?

助手席のドアに寄り掛かり、少しこちらに向けた感じになってスカートの中が丸見えだった。
水色のそれが見えた瞬間、『涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~』のイントロが流れた。
20秒ほど静止していただろうか、そして彼女が瞼を開き座り直した。

「ごめん寝ちゃってた…あれ? 着いた?」
「いや、まだ近くのコンビニ」

平静を装い淡々と言った。
頭の中はコバルトブルーだった

 

その後、結局道が分からず地元に向かった。
2人とも同じくらいのタイミングでどうでもよくなり、「帰りたい」が先行し、どちらからともなく提案した。

ファミレスで食事をした後、車を家の駐車場に停めて近くの公園まで歩いて花火をした。
もちろん、キスも「あすなろ抱き」もできなかったけど、これはこれで悪くはなかった。
悪くなかったが、パンツを見てしまったことがあってか、悶々としたものは残っていた。

これはなんとかしたい。
でも、彼女とは友達であり、そんな感情を抱いたことはなかった。
数時間前に芽生えた「1回だけお願いしたい」という、一時かもしれない感情に任せていいのだろうか。

「この後、ウチくる?」

そんな紳士的な迷いは一瞬にして消えていた。
なにせ、20歳の夏なんだぜ。

「…うん」

ここでも平静を装い、頭の中でだけガッツポーズをした。


ウチに泊まることになり、缶チューハイを飲んでそんな時間になった。
当然、布団は1組しかない。

「そろそろ寝ようか?」
「…うん」

公園の帰り道くらいからしおらしくなった彼女は、待ち合わせをした朝とはまるで別人だ。
布団に入り電気を消すと、それだけで一部分が元気になっていくのを感じた。
数分後、頃合いを見て触れた途端、

「ちょっと! ダメだよ!」

いやよいやよも、のトーンではなく本気のやつ。

「いやそんな…この場面で!? 今日くらい…」
「ホントにダメだって!」
「お願いしますから1回だけでいいから!」
「ないからそんなの!」
「分かった、好きだから! 好きだからそうしよう!」
「ウソつけ!」

バレていたって食い下がるわけにはいかない。
もはや、「どうしてもこのコとしたい」になってしまっている。
葦簀の君を求めている。

「彼氏ができたの!」

相手もウソをついてきた。
ウソじゃないにしても、この場面では断るためのウソに聞こえてしまう。

「まぁそれはそれとして、今日だけなんだから!」
「違うの、〇〇くんなの!」
「…へ?」
「〇〇くんと付き合ってるの、先週から」

しばらく会ってはいなかったが、共通の友達の名前だった。
だったら家に来るなよ…2人で食事はいいとしても、2人だけで海は断ってくれよ…。


紳士である私は何もせず、翌朝家まで送り届けた。

10数年経った今でも記憶している思い出。
読んでいて不快に感じた方がいらしたら申し訳ありません。