今週のお題「恋バナ」
失敗した恋愛話ばかり書いている私だけど、たまには成功もあるんだよ。
他人の幸せな話なんてつまらないでしょうけど、まぁ聞いてよ。
といっても、これは10年近く前の話だけど。
当時、バイト先の1歳上の先輩に恋愛の相談をされていた。
「Sちゃんカワイイよなぁー」
Sさんも私の1歳上で、明るいコ。
相談してきた先輩はイケメンでやさしくて最高の先輩なのだが、女に対しては奥手だった。
「先輩とSさん仲良いし、先輩なら余裕だと思いますよ」
「いやー、でもさぁ…」
それが2ヶ月くらい続いた。
度胸ねぇなぁ、と思ってしまうこともあったが、そっと見守ることにした。
数日して、そのバイト仲間15人くらいで、バイト先の座敷を貸し切って飲み会が開かれた。
当然、先輩もSさんも参加する。
よし、なんとか先輩の隣にSさんを座らせなきゃ…。
自然な方法はないだろうか…。
考えている間に、どんどん席が埋まっていく。
男10人、女5人、女は固まって隅の方に座ってしまった。
まぁ、どうせ朝まで飲むんだ、いくらでもタイミングはあるだろう。
とりあえず先輩と隣に並んで座った。
Sさんがトイレにでも立ったら、私がSさんの席に座ってしまおう。
そしたら私の席しか空いていないから、Sさんはそこに座るしかなくなる。
Sさんの性格的に、私をどかすことはないだろうし、どかされそうになったとしても、なんとかあしらえる。
うん、これでいこう。
Sさんの様子を伺いつつ飲むことにした。
2時間くらい経っただろうか、Sさんはなかなか動かない。
こっちがモヤモヤしてしまい、先輩を奮い立たせようとした。
「先輩、そろそろSさんに言ったらどうですか? 絶対イケますよ」
「うーん、そうだよな、そろそろ言わないと…」
まだ踏ん切りが付かないのかこいつ。
「好き」と言うだけのことが何故できないのだろう。
先輩は溜息をつき、トイレに立った。
大好きな先輩だけど、その後ろ姿から負のオーラを感じ、ちょっとカッコ悪かった。
「一くん」
「はい! …え?」
Sさんが私の横に立っている。
「お話しよー」
そう言うと先輩の席に座った。
まだトイレから戻っていない。
「お酒強いの?」
「いや、平均的じゃないですかねぇ」
「ふーん…それ何杯目?」
「5杯目だったかな? Sさんは?」
「3杯目かな? 追いつくね!」
なにこれ…なんかすごくいい。
いや違う、やばい、先輩はどうした?
辺りを見回すと、先輩はSさんがいた席に座って隣のブスと喋っていた。
私がSさんと会話をしている間にトイレから戻ったようだ。
どうしよう、あまり不自然なことはできない。
未曽有の気まずさを感じながらも、しばらくこのまま様子を見ることにした。
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それからまた2時間ほど経った。
相変わらずSさんは私の隣にいる。
その間、ずっと会話が尽きなかった。
何を話したかは覚えていない。
先輩が気掛かりでならなかったからだ。
何度も先輩の方を確認したが、意識してこっちを見ていないように感じた。
「甘いもの食べたいね!」
Sさんがこちらに顔を向ける。
「あ、いいですね」
「じゃあ、パフェ作ってきてあげる」
そう言うと、立ち上がり厨房へ向かった。
ここだ!
私は先輩の元へ行き、肩を叩いて小声で言った。
「席を代わりましょう」
「いいよ別に」
「本当にですか?」
「ううん、代わる」
いじけてたのか、そんなカワイイ面もある。
先輩はSさんが戻ってくる前に、急いで私がいた席に座った。
Sさんが戻ってきたのが横目で確認できた。
座敷に上がるところで立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回していたが、
私は気付かぬフリして、隣のブスと何のためにもならない会話をしていた。
Sさんは先輩の隣に座り、2つ持っていたパフェの1つを先輩に渡した。
良かった、とりあえず良かった。
後は先輩次第だろう。
「一くん」
ブスに小声で呼ばれた。
「ん?」
「Sちゃんのことどう思う?」
「どうって、明るいなぁって思うよ」
「ふーん…」
こうなるとなんとなく分かるものである。
というか、さっきから薄っすら感じてはいた。
「Sちゃんがね、一くんと友達になりたいんだって」
「友達ってすでに…いや、というよりバイト仲間かな?」
「そうでしょ? だから、後でメアド訊いてあげて」
「俺から訊くの?」
「うん、訊くの恥ずかしいみたいだから」
明るくて何でも言えそうなSさんの意外な一面、そのギャップに惹かれた。
カワイイよ、Sさん。
でもダメだ、先輩に相談されているのに、それはできない。
Sさんから訊いてくることはなさそうだから、私が訊かなければ大丈夫だ。
出来レースを降りるのはとても苦しいけど、別に前から気になっていた訳じゃない。
ここは先輩を裏切る訳にはいかない。
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それから5分も経っていなかったと思う。
Sさんがいつの間にか近くに来ていて、ブスの肩を叩いた。
「あ! はいはい」
まるで申し合わせたかのように、ブスが席を立ち、Sさんがそこに座った。
「お待たせ!」
「あぁ…おかえり」
「ただいま! 作ってきたよ」
食べていなかったのか、少しだけ溶けたパフェを1つ持ってきた。
もう1つあったパフェは先輩の前に置いてある。
「1つだけ? Sさんのは?」
「さっき(先輩)にあげてきちゃった! これは一くんと一緒に食べようと思って」
これがマンガなら、『ズキューン』の文字が入るだろう。
しかし、先輩を裏切る訳にはいかない。
私はこう言ってやった。
「Sさん」
「うん?」
「メアド交換しませんか?」